研修報告「政策科学基礎講座」第Ⅱ期 第1回 「地方自治と政治離れの本質」
=民主主義と政治再生に何が必要か=
報告者 松島 幹子
日時 2017年5月19日(金) 13時半~16時半
会場 図書館総合研究所
講師 北海道大学大学院法学研究科・公共政策大学院 教授 宮脇 淳 先生
- 1970年~80年初頭ごろまで衆議院選挙の投票率は70%前後だったがどんどん低下して平成26年では55%を割り込んでいる。他の都議選、県議選も同様に1980年代後半から下がっている。
- 1980年代後半は中曽根内閣で民間化、民営化が行われはじめマーケットに対する政治の位置づけの低下が起こった。これによるパワーシフトの影響が大きいのではないか。
- また、1990年代後半から大衆情報化社会となり、今までの大量生産、流通、消費社会から大きなパワーシフトが起こったが、この大きな流れの中で政治家が対応できておらず、投票率の低下に表れているのではないか。
- 国土計画局が出している資料によると将来の日本に対する3つの不安として➊人口減少の進行❷急速な少子高齢化❸国と地方の長期債務があり、労働力、投資余力の減少等を踏まえ、国土の将来の課題に対応することが必要としている。現に、❶無投票当選の拡大❷高知県大川村議会廃止、町村総会導入の検討など実際に起こってきているが、将来人口(2100年)は、現在の人口の1/3になる事を考えると現在のままの議会のあり方を存続することは無理。
- 市場と政治の緊張関係は現在では市場の方が圧倒的に強い。
- ❶民主主義とは何か①熟議民主主義と代表民主主義、半代表制では、半代表制の部分が拡大している。そのため住民監査請求などの対象が増えている。②多数決③ポピュリズム(衆愚民民主主義)とはなにか?・・・出会いがしら政策(すぐに失敗する)の活発化、私的問題の公共化ではないか。
- 地方自治とはなにか?
- 近接性の原則・・・「個人でできることは個人で、家族でできることは家族で、コミュニティーでできることはコミュニティーで、コミュニティーでもできないことを自治体で」であるが、家族、コミュニティーがなかなか難しい今はすぐに自治体に問題が持ち込まれる状況になっている。
- 補完性の原則・・・・市町村でできないことは県へ、県でもできないことは国へ
- 政治的参加とはなにか・・・デモも住民運動も減っているが、参加できるツールは増えている。
- 働きかけの対象は行政だけではなく、新たな公的機能をになうNPO、官民連携などの働きかけを行うことは政治参加へと繋がっている。以前は100%官だったものが、現在では民営化、外部委託、指定管理者制度などがある。
- 投票率低下の要因・・・住民の民度の低下などというのは失礼な話で、関心を相対的に低下させる問題がある。その問題に対応していかなければ脱政治の流れは止められない。民主主義を進化させる要因を作っていかなくてはならない。
<所感>
いただいた資料の中の「増分主義の利害調整」と「減分主義の利害調整」はとてもわかりやすかった。「増分主義の利害調整」の今までの政治は予算も配分も右肩上がりで増える分の配分を決定していた。そんな中では政治的利害調整が中心だった。しかし、現在の「減分主義の利害調整」では減らす決定をしなくてはならず、経営概念が重要になり、限られた資源をいかに有効に活用するか経済的合理性が重要で、持続可能な自治体運営が最も重要な責任となる。
今まで、右肩上がりの時代は首長がやりたいことを議員は邪魔せずに、反対せずに・・・議会では反対せずにいればよい時代だったのではないだろうか。私が議員になった時にある人に言われたことを思い出した。「議会では目立ってはいけない。何もやらないのが一番良い。反対なんかしちゃだめだ。そんなことしたら役職になんかなれない。損するだけだ。」しかし、それらを私はことごとく破った来た。
「なぜ、この議案に反対しないのか?」・・・「増分主義の利害調整」から「減分主義の利害調整」へとパワーシフトしなくてはならないのにパワーシフトしてないのではないかと思った。
行政も議員も右肩下がりの時代へとっくにパワーシフトしなくてはならなかった。とくに2008年9月に起こったリーマンショック以降は、重要だった。右肩下がりの時代に対応している自治体としてない自治体の自治体間格差は既に開いている。茅ヶ崎市は対応せずに、新庁舎建設、保健所政令市へ進んだ。
某市の議員の話「財政調整基金は既に標準財政規模の20%を超えたので現在は標準財政規模の25パーセント、100億円を保有することを目指している。しかし、なぜ保有するのかの理由の説明責任を果たす事が求められていて難しい。」という発言があり、驚いた。この自治体は、市民も財政白書を出している市民活動が活発な自治体だと認識している。
茅ヶ崎市は、底を尽きつつある財政調整基金の状況。茅ヶ崎市の財政調整基金は27年度末では約43億円。28年度予算では約13億円の取り崩しなので28年度末の残高は約30億円。(今年の9月の決算で額が確定する。)29年度の取り崩し予算額は12億円なので、29年度末の残高は約18億円となり、昨年12月議会で服部市長がいざという時のために市民1人当たり1万円、合計で24億円は最低減確保したいという額を29年度末には下回る予定。標準財政規模は約400億円なので確保が望ましいとされる10%の額は約40億円。持続可能な自治体運営が最大の責任。これでは責任を果たしているとは言えない。大型公共工事が止まらない。建物を建てるとランニングコストがかかる。国土計画局が出している「国と地方の長期債務があり、労働力、投資余力の減少等を踏まえ、国土の将来の課題に対応することが必要」へ早く対応しなくては将来的に大変な事態になると思う。日本人は今までは、家を建てるとそこにとどまり、あまり移動しなかった。しかし、これから先は自治体間格差が激しくなれば人は簡単に移動するであろう。特に、人口減少で家は簡単に手に入る時代となるであろうからなおさらである。財力が自治体になければサービスを提供することはできない。現在のサービスの提供もできなくなるであろう。
政治の影響力の低下では、指定管理者問題が挙げられると思う。指定管理者制度をやめて直営に戻す自治体が増えている。指定管理者制度では議会が直接関与できるのは、指定管理者を指定するときだけ。その他は年一回の経営状況報告などで報告されるのみである。たとえば、市民文化会館の主催事業について等は税金が多く投入されているが、その税金の使い方などの中身についてまで追求ができない。問題があると思う。議会の力はそういう意味では弱まっていると感じる。制度について議論する必要があると思う。