社会保障についての研修報告①~学校給食

研修報告「日本一の学校給食はなぜ可能なのか~宝塚市給食から自治体行政を考える」
講師 高田輝夫先生(兵庫県宝塚市教育委員会学事課長)
日時 2018年4月18日(水)9時半~12時半
場所 大阪府保健医療協会M&Dホール
報告者   松島 幹子

<要旨>
 宝塚市は直営で学校給食事業は行っている。人件費は高いが安定性、継続的な運営の面では委託では難しいと考えている。
 給食はしっかり調理して75℃以上1分以上加熱してから出さなくてはならない。
 クックパッドに給食メニューを載せた⇒神戸新聞に載った⇒ヤフーニュースに載った⇒アクセス数増加した⇒多くのメディアに取り上げられた⇒テレビに取り上げられるようになった⇒主婦と生活「給食レシピ集」を地方創生の国費で作った。(200万円)市費負担なし。無料配布した。
 大試食会を開催した。学校給食展をしているのでその時に合わせて行った。1時間以上前から1000人近くの人が並んだ。3000食ほどがすぐになくなった。試食がなくなると皆帰った。
 大試食会2回目。クックパットで人気のレシピを3500食ずつ用意した。市民にとっても身近に感じてもらえる学校給食を目指している。
 1957年から順次、自校方式をすすめ、1969年に小中全校自校方式の学校給食が実現した。
 強制するのであれば「おいしい物を食べさせろ」となるので、デリバリー方式や選択方式では「おいしい給食」は難しい。
 デリバリー方式・・・失敗が多い。おいしくない。調味料に一定の制限がある。冷たいと味が感じられなくなるので、あらかじめ濃いめの味にせざるを得ない。それに対して自校方式では熱いまま、だしの味を効かせて薄味で提供できる。
 選択方式・・・予約数が少ないために一人あたりの給食運営費が6300円になってしまった事例がある。
 新たに給食室を建てるのではなく、内部改修で給食室を造っている。特別室の下であればできる。別棟で給食室を造った時には約1億5千万円かかった。(14年前)それに対して特別教室の下では約7千万円(15年前)でできた。これから考えると、センター方式で15億、20億かかるのだったら1校ずつに割っても同じではないか。
 調理室の機器更新にもそれほどお金がかからない。しかも15年ほどは使える。一番お金がかかるのは人件費。
 コスト面では、自校方式では食材以外の費用は一人当たり300~320円+食材費=550円~580円が1人1食当たりの費用となる。それに対してセンター方式では食材費以外のコストは230円~250円+食材費+運搬費となるので自校方式と比較しても1食当たりの費用はそれほど差がない。
 調理員が教室で給食指導の補助をしている。給食の先生も「○○先生」と名前で呼ばれている。
 給食室前の掲示板は毎回工夫して展示している。
 給食調理員で劇団「からっぽ大作戦」を結成して楽しく食育劇も行っている。
 人件費抑制策として111人の正規職員を平成26年には53人に減らし、さらに臨時職員を増員した。
 ふりかけもジャムも手作りしている。そのためジャム用に鉄ではなくアルミ釜を1つずつ導入している。
 残量は気にしていない。子どもに迎合した給食ではダメだと考えている。食べさせたい物を出す。たとえば大豆、小魚、海藻類などを多く取り入れている。残量はゼロにはならないが減少傾向。いろいろな食材を食べさせていきたいとチャレンジし続けている。
 だし袋はさらしで夏休みに手作りで更新している。そのほか、包丁研ぎの研修も休みには行っている。
 「給食はおいしくなければならない。おいしくない給食は子供にとって辛い。」これを常に念頭に職人という自覚を持っておいしさを追い求める事は重要だという共通認識を持つようにしている。
 米飯は、自前で各校300人分を炊くことが出来る。この整備に全部で2億4千万円かかった。炊き立てのご飯を食べさせてあげたい。議会では修正案がでた。委託だと60円/1杯⇒自校30円/1杯・・・・30円浮いた分・・・食材に回せる⇒なかなか食べることのできない食材にもチャレンジしている。15円分は市の歳入へ光熱費として戻し、整備投資にかかった2億4千万円を回収していっている。結果、パンよりご飯のほうが安いのでもっと米飯給食を増やすとお金が浮いてくる計算となっている。⇒ご飯には牛乳は合わない。カルシウム摂取からすると牛乳を抜くわけにはいかないので悩んでいる。しかし、給食室では飲み物の提供はできない。お茶を沸かす機器がない。
 これまでの宝塚市の学校給食の経緯について。1976年初めて学校給食を委託した。1977年に事件が起こった。委託先のリーダーとなる人の要件を定めていたが、ある学校の委託先のリーダーが要件を満たさない17歳であることが判明したり、異物混入、異臭などの問題が発生した。そのため、委託をやめて嘱託職員をいれて人件費抑制を図りながら学校給食を直営に戻した。
 直営に戻す大きな政策転換は、地元の代議士 土井たか子さんが国会で質問した⇒その答弁 「学校給食は委託を想定したものではありません。」だったこともあり大論争となった結果、委託から直営に戻した。
 小中学校、各階に配膳室がある。学年ごとに分けている。同じフロアーに異学年がある場合には時間差をつけて配慮している他、担任以外の教員が2名立って監督している。生徒指導は大変だが、今のところトラブルはない。
 学校給食を公会計にすると5年で8000万円ぐらいかかる。人件費もプラスでかかるが公会計にすることは必要だと考えている。
 学校給食はもともと支援から始まった歴史がある。昭和32年から市会計で始まった。とにかく始めることが重要だった。
 しかし、今のままだと給食費の運営チェックが出来ない。公会計にする必要性がある。
 現在のままでは学校給食の債権者が不明確である。食べているから債務はある⇒条例で明確化する。支払をしっかりしてもらう。資金の流れを透明化する。
 宝塚市の徴収している学校給食費は約8億円。この運用について保護者に説明している。学校給食用物資の透明化。特に規則もないので入札も含めてやっていかなくてはならなくなる⇒公会計
 教職員の負担軽減も重要。学校には配慮が必要である。子どもに関することで学校が電話しているのに給食費の滞納督促だと感じて保護者が電話を拒否することがある⇒公会計で学校、教職員が督促の電話をしなくて良いようにすることは重要。
 牛乳は県が一括購入。米、パンも県。それ以外は各校で購入しているので、地元の食材で作ることが出来る⇒地元でお金を回すことが出来る。
 野菜は各生産者の野菜をシルバー人材センターが購入⇒それを学校が購入する。高齢者雇用へとつながっている。
 衛生管理には特に注意している。給食はまず安全でなければならない。人の努力だけではなく設備が違ってきている。今は長靴を履かないドライ方式になってきた。調理工程によって部屋を区分けして菌が最終工程の部屋に持ち込まれないようにしている。⇒ドライ方式への転換は高額なので建て替えに合わせてドライシステムにしている。
 非常時3.11の時の事・・・外用のお釜(熱源は灯油と電気)が7釜ある。大船渡市へ調理員3名、食材も水もすべて持って炊き出し支援へ行った。給食を直営でやっているので可能だと感じた。
 放射能測定について・・・簡易検査器450万円。1検体2~3時間かかる。1食まるごと測定を1年間。その後は1つずつ測定している。⇒HPで公表している。http://www.city.takarazuka.hyogo.jp/kyoiku/1008934/gakkorecipe/1003607.html
 放射能測定器を学校給食用に日本で初めてすぐに購入した。その後は測定器が入手困難になった。⇒こんなとりくみをしていることが評価されてか、避難市として多数選ばれた。問い合わせも多かった。
 調理員は単純労務職として採用するので用務員になったりと移動がある。
 給食費は1食当たり小学校230円、中学校270円の食材費が保護者の負担となっている。
 アレルギー対応については事故が起こってはならないので安全性優先で行っている。最低、卵だけはやることとしているが、希望があればそれ以上対応するのか、絶対に事故が起きてはならないので限定的になるのか、現在議論をしている状況。
<研修を終えて>
「自治体にはお金に代えられないものがある。」と首長が明確な理念を掲げて義務教育でのこだわりの完全給食を実施している。材料は原則国産(野菜、果物はすべて国産)、だし汁は化学調味料を使わず、いりこ、削り節、昆布からとり薄味。冷凍食品は使わず、揚げ物もすべて調理室で衣をつけ、ふりかけもジャムも手作りしている。パンも市販の物とは違い、添加物、脱脂粉乳なし、当日焼いてもらっているそうである。子どもの貧困率が上がっているが、「政治が子どもを守るべき」として「9年間の直営自校方式に取り組んでいる宝塚市は、本当に子どもたちの命、健やかな成長の事を考えて一生懸命取り組んでいる自治体だということを知っていただきたい。そして給食に関心を持ってもらいたい。」という市長のインタビューが「子どもの元気育てる 宝塚の学校給食」というレシピ集に載っているが、その通りだと思う。成長期にしっかり食、いろいろな食べ物を食べて栄養状態が良いことはその後の生涯への大きなプレゼントでもあると思う。中学校給食実施率が低い神奈川でも近隣市が中学校給食の取組みを始めている。数年前まで財政状況の悪化がニュースにもなった寒川町でも2023年までにすべての中学校完全給食を実施するとしている。直ちに茅ヶ崎市でも検討をすべきである。このままでは大きな遅れとなるだろう。

先日、寒川の飲食店に置いてあった寒川町が作っている冊子を入手した。とても良くできていてわかりやすい。

2023年度より中学校全校で給食を実施すると明記されている。

子育て支援について中学校3年生まで医療費無料、妊婦健診助成金額、ファミリーサポートセンターの利用料金など、寒川町のアピールが近隣市と比較して書かれている。

子育て支援、茅ヶ崎市でも優先順位を上げて取り組むべきです。

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